越境ECを進める際は、ECサイトの多言語対応が必要になりますが、その際に直面する課題があります。ここでは、多言語対応で失敗しないための対策方法や注意点などについてまとめました。
Applause社(米・ボストン)が2024年8月に行ったデジタル決済に関する調査では、消費者の52%が「ローカリゼーションの不備」を理由に、購入手続きを放棄していることが明らかになりました。
主な理由としては「誤った単語や構文(48%)」「現地知識への依存(40%)」「スペルミス(38%)」などが挙げられています。つまり、不自然で文化的に配慮されていない多言語対応は直接的な収益損失につながっているのです。
消費者は「読めなければ買わない」のはもちろん、不自然・不正確な表現はサイトやブランドへの信頼性を大きく損ねるため、結果として購入を放棄してしまいます。そのため、多言語対応には高い「質」が求められます。精度の高い翻訳には手間もコストもかかりますが、越境ECにとって消費者を満足させるための運用負担は避けて通れないでしょう。
越境ECに多言語対応が必須であるとわかっても、実際に進めようとするといくつかの課題に直面することになります。では、解決すべき課題としてどのようなものがあるか紹介しましょう。
機械翻訳の進化で簡単に翻訳できますが、誤訳や不自然な表現が生じやすいのが現実です。例えば、日本の着物で使う「帯」は、機械翻訳では「belt」や「band」と訳されがちですが、商品の魅力や文化的な背景は伝わりません。「Obi(sash belt for Kimono)」のように、背景を知らない人にも伝わる工夫が必要です。
また、同じ英語でも米国(Soccer)と英国(Football)でサッカーを指す言葉が異なるように、ターゲット地域の特性を無視した翻訳は消費者に違和感を与えます。機械翻訳でも意味はある程度伝わりますが、こうした不自然な文章は、消費者に「細部への配慮が欠けている」「海外顧客への対応が不十分である」といったマイナスの印象を与えかねず、サイトやブランドへの信頼を失う原因となります。最悪の場合、詐欺サイトではないかと疑われ、即座に離脱されてしまうでしょう。
一方で、プロ翻訳を利用すれば精度は高まりますが、コストや更新作業の負担が新たな課題として残ります。
ECサイトは、新商品の追加やキャンペーン実施など継続的な更新が必要です。更新のたびに多言語化対応も求められるため、更新漏れや内容の不整合が発生しやすくなります。
一部は自動翻訳で対応できても、高い翻訳精度を維持するには人のチェックが不可欠であり、結果として運用・更新の負担が大きくなります。
検索エンジン経由で集客するにはSEO対策が重要です。多言語サイトでは、各言語ページを正しく認識させなければ検索流入を得られません。
多言語サイトでは、hreflang属性を用いて各言語ページ同士を相互に参照し、必要に応じてx-defaultを設定します。インデックスの有無はhreflangだけでは決まらないため、正しいURL設計、canonical設定、さらにコンテンツのありかを検索エンジンに伝え、ページを見つけやすくするsitemap.xmlの作成などを併せて実施することが重要です。これらの設定を誤ると、各言語ページをコピーコンテンツと認識してしまうなど、検索エンジンの評価が分散してしまうため注意が必要です。
また、その国で使われている言葉でキーワードを選定することも大切です。例えば、日本語では「ズボン」ですが、アメリカでは「Pants」、イギリスでは「Trousers」となり、単語が異なります。もしイギリスで「Pants」と使ってしまうと、下着を意味するため衣料品販売では特に注意が必要となります。
多言語対応は製品情報の翻訳だけでは不十分です。決済方法、通貨表示、住所形式、関税情報など、利用者が操作・閲覧する全ての要素に対応しておかないと、購入途中で離脱される可能性があります。特に、海外では日本に比べて消費者保護に関する法律が厳しいケースが多く、返品・交換のルールを明確にしておかないと大きなトラブルに発展するリスクがあります。
さらに、多言語での問い合わせ対応も大きな課題です。問い合わせは基本的に困りごと(配送遅延、破損、返品希望など)があって発生するため、センシティブさが必要となります。言語が異なることで意図が伝わらず、回答のラリーが多くなることも珍しくありません。こうしたサポート体制をゼロから整えることは、クレームや低評価を防ぎ顧客満足度を高めるために不可欠ですが、同時に事業者にとって大きな負担となります。
ECサイトを多言語対応させるには、細部まで翻訳精度を高める必要がありますが、プロ翻訳を依頼すれば費用が高額になります。しかも、サイト更新のたびに翻訳が必要となるため、継続的に運用コストが発生します。
特に、取り扱う商品数が増えサイト規模が大きくなるほど、多言語化にかかるコストも増加します。このコストは「対応言語数×ページ数」で膨れ上がるため、大きな負担となります。さらに、言語ごとに更新作業を行うことで各国語への反映にタイムラグが生じ、プロモーションの機会損失につながるリスクも発生します。そのため、業務効率化やコスト削減の仕組みを導入することが求められます。
越境ECは「多言語対応」だけでなく、複数のステップを戦略的に組み合わせて進める必要があります。多言語対応はその中でも顧客と接する最前線にあたる重要な要素ですが、どの段階で取り組むべきか、他の施策との整合を取ることが成功の鍵です。
当メディアでは、越境ECの立ち上げ全体像や進め方を整理しています。これを先に押さえておくことで多言語対応の考え方も、より具体的に理解できるはずです。
多言語対応の課題を解決するために考えられる対策方法をまとめました。これから越境ECをスタートする方は是非参考にしてみてください。
すべてをプロ翻訳に依頼するとコストが高額になるため、機械翻訳+人のチェックを基本に多言語化を進めます。
商品説明やブランドストーリーなど、購入意欲に直結する部分はプロ翻訳を活用し、それ以外は機械翻訳をベースに後編集を行うと効率的です。商品ジャンルによっては、その分野に強い翻訳会社を選定することも検討しましょう。
更新や運用の効率化には、CMSだけでなくTMS(翻訳管理システム)や、多言語化・翻訳SaaS(サービスとしてのソフトウェア)を活用する方法があります。TMSは翻訳プロジェクトを一元管理でき、進捗・タスク・コメントを共有可能です。
また、Shopifyの多言語アプリなど、自動翻訳プラグインを利用すれば、翻訳作業の一部を自動化し、更新スピードを大幅に高められます。
ただし、前述した通り、自動翻訳(機械翻訳)は、誤訳や意図通りの翻訳にならないケースも少なくありません。「翻訳精度向上」の項目でも触れたように、機械翻訳とプロの翻訳(または人によるチェック)を適切に組み合わせて運用することが重要です。
まず、検索エンジンが正しくページを理解できるように、以下のようなGoogleが推奨するURL構造でページを作成しましょう。
非推奨であるパラメータでページの出し分けをしてしまうと、正しく検索エンジンが理解できない可能性があります。
また、ドメインはgTLDを使うようにしましょう。gTLDというのは、特定の地域に関連付けられていないドメインのため、SEOの不利を受けません。もし、ccTLD(国別コードトップレベルドメイン)を使う場合はターゲットの国を一致させないと、検索結果に表示されにくくなる可能性があります。
noteがnote.muからnote.comへドメイン変更した話は上記が理由です。
他にも、検索エンジンに正しくインデックスされるよう、hreflangタグを正確に設定することが基本です。さらに、サイトマップを明示して構造を整理し、課題セクションで触れた「Pants」と「Trousers」の例のように、地域ごとにキーワードの検索ボリュームや検索意図(インテント)をリサーチし、コンテンツ自体をローカライズします。
また、canonical設定も合わせて行うことで、評価の分散を防ぎ、各言語ページの検索流入を最大化できます。また、テキストだけでなく、現地の祝日(例:旧正月、ブラックフライデー)に合わせたビジュアルやキャンペーンを打ち出すことも、現地のユーザーエンゲージメントを高め、間接的にSEO評価に影響します。
多言語対応は製品情報の翻訳だけでなく、決済・物流・サポートまでを含めて考える必要があります。
決済方法については、デジタル品質ソリューションを提供するApplause社の2024年の調査で、消費者の76%が「希望する支払い方法が受け入れられない場合、取引を放棄する可能性がある」と回答しています。国や地域によって主流となる決済手段は異なるため、クレジットカード決済だけでなく、AlipayやPayPalなど、現地で利用率の高い複数の手段を幅広く導入する「多角化」が、この離脱を防ぐために不可欠です。
物流面では信頼できる国際物流パートナー(フォワーダーや3PL事業者)と連携して配送や保管を効率化します。また、返品対応も重要です。日本に比べ海外は消費者保護に関する法律が厳しいケースが多く、例えば台湾では商品を受け取った翌日から7日間の返品保証が義務付けられています。現地の法律に準拠した返品ポリシーをサイト上に明記し、トラブルを未然に防ぐ必要があります。
多言語での問い合わせ対応を行うカスタマーサポート体制の整備も不可欠です。まずは決済、配送(関税、日数)、返品・交換に関するFAQやヘルプページを充実させ、現地の言語でわかりやすく翻訳・整備することで、問い合わせ件数そのものを削減する工夫も有効です。
運用コストを抑えるには、まず「ターゲットとする国」の言語から優先的に対応を進めるのが基本です。ただし、ECサイトは想定外の国からもアクセスがあり得るため、結果的に国際共通語である「英語」から着手するのが効率的なケースも多いです。
また、日本語から直接各国語へ翻訳するのではなく、まず英語を基準として翻訳し、その後英語を仲介言語として他言語へ展開する方法も有効です。これは、日本語から特定の言語(例:日本語→スウェーデン語)への翻訳者を探すよりも、「英語」から各言語(例:英語→スウェーデン語)への翻訳者の方が圧倒的に多く、翻訳リソースを確保しやすいためです。結果として翻訳コストを抑えつつ、品質を一定に保ちやすくなります。
多言語対応を自社で一から構築・運用するのは手間とコストがかかりますが、最近では、既存のECサイトに導入するだけで多言語化や海外販売をサポートするソリューションも増えています。ここでは、「WorldShopping BIZ」と「Shopify」2つの事例を紹介します。それぞれ異なる仕組みで越境ECの多言語対応を効率化できるサービスです。
世界的に利用されるECプラットフォームで、専用の多言語アプリ(例:Translate & Adapt、WOVN.io連携など)を活用することで、多言語ページの自動生成や翻訳更新を効率化できます。翻訳管理システム(TMS)との連携にも対応しており、言語追加時の整合性維持やSEO最適化にも強みがあります。中小から大規模まで幅広い企業が、短期間で越境ECを展開できる柔軟性が特徴です。
日本のECサイトにタグを1行追加するだけで、世界228の国と地域への販売を可能にする越境EC支援サービスです。初期費用33,000円、月額5,500円で利用でき、多言語ナビゲーション表示・海外対応カート・カスタマーサポートの多言語対応(日本語・英語・中国語(簡体字・繁体字)・韓国語の5言語)から、決済、配送、関税処理までを一括代行し、既存の国内ECをそのまま越境対応化できます。なお、サイトの表示言語は、ブラウザ言語設定や国・地域がこの5言語に該当しない場合は英語で表示される仕様です。
料金面では、導入時の初期費用や月額固定費を抑え、売上に応じた手数料(従量課金)で始められるプランなどが用意されており、低リスクで開始できる点も魅力です。
越境EC手法には購入・発送代行の利用以外にECモール出店や海外向けECサイト構築があります。ここでは、それぞれの多言語対応の違いについて紹介します。
ECモールには自動翻訳や多言語出品の支援機能が用意されていることがありますが、対応範囲や品質はモールやプランによって異なります。登録した日本語データを機械翻訳で各言語に展開するケースが多く、商品名・属性・成分/素材・注意事項・法定表示・広告文はそのままだと不自然な表現や誤訳のリスクがあります。
重要ページや高トラフィック箇所は出店者側で人手による最終チェック・上書きを行い、用語集や翻訳メモリで表記を統一するのが安全です。
海外向けECサイトを構築する場合、多言語化は自社が設計主導になりますが、TMS(翻訳管理システム)やプラットフォームの多言語アプリ、外部翻訳ベンダーを組み合わせることで運用負荷を分散できます。細部までカスタマイズできる自由度の高さが強みである一方、運営側の戦略判断が不可欠です。
例えば、コストを抑えたい部分は「機械翻訳をベースに人の手で修正する」方法をとり、ブランドイメージに関わる重要な部分は「プロの翻訳者に依頼する」といった使い分けが必要になります。

多言語対応というと「翻訳」だけに目が向きがちですが、実際には運用・SEO・決済・物流・カスタマーサポートまでを含む総合的な取り組みです。翻訳精度だけでなく、通貨や住所形式、カスタマーサポートの対応言語、法令表示、そして検索エンジン最適化まで含めた“現地仕様”の最適化が求められます。
ただし、すべてを一度に実施するのは現実的ではありません。「主要言語×売れ筋商品」など優先順位を明確に設定し、段階的に拡大していくのが効果的です。また、すべてを社内で完結させようとせず、機械翻訳・TMS(翻訳管理システム)・外部翻訳サービスを上手に組み合わせて運用コストを抑えることが、多言語対応を成功させるポイントです。
当メディアでは越境EC全体の情報やまずやるべきこと、始め方なども詳しく解説しています。気になる方は以下ページからチェックしてみてください。
| ECモールへの 出店 |
越境ECサイト を構築 |
購入代行モール型 | 購入代行自社サイト型 | |
|---|---|---|---|---|
| 導入のしやすさ | ECモールに 出店準備が必要 |
立ち上げに 多大な時間が必要 |
国内ECに タグ1行追加のみ |
国内ECに タグ1行追加のみ |
| 運用のしやすさ | 海外向け オペレーションを 整える必要あり |
海外向け オペレーションを 整える必要あり |
海外向け オペレーションを 整える必要なし |
海外向け オペレーションを 整える必要なし |
| 導入コスト | 異なる言語で 出店準備が必要 |
多大な 構築コストが必要 |
国内ECの活用で コストを抑えられる |
国内ECの活用で コストを抑えられる |
| 運用コスト | 多言語CSや 海外発送など 自社で行う必要 |
多言語CSや 海外発送など 自社で行う必要 |
多言語CSや 海外発送など 対応不要 |
多言語CSや 海外発送など 対応不要 |
| 戦略の自由さ | ECモールの ルールに従う必要 |
自社ECサイトなので 自由に行える |
自社ECサイトなので 自由に行える |
自社ECサイトなので 自由に行える |
| ブランディング | ブランドイメージの 確立が難しい |
自社ECサイトなので ブランドを 自由に表現できる |
モールに遷移する のでブランド体験が 途切れる |
自社ECサイトなので ブランドを 自由に表現できる |
株式会社ジグザグは、越境EC支援を手掛ける企業。海外購入者の言語・決済・物流の壁をテクノロジーで解消し、日本のECの海外販売を推進しています。「WorldShopping BIZ」は、タグ1行の導入で既存サイトを越境対応化。海外からの注文受付、決済、多言語CS、多くの国と地域への配送までワンストップで代行します。